
<デジタル発>北見にスタバが来た! 高校生が誘致?
2020年12月24日
コーヒーチェーンのスターバックスコーヒージャパン(東京)が11月2日、北海道東部のオホーツク管内で初めての店舗を北見市にオープンさせた。出店を後押ししたのは2年前、北見北斗高の生徒5人がスタバ誘致を目指し、授業で取り組んだ調査研究だった。
■出店のうわさ、出ては消え
「何を飲もうかな。フラペチーノ?」「まだまだ混んでる。やっぱり人気なんだね」
寒さにも負けず、店舗の前に列をなす市民の会話は弾み、表情は明るい。
その店舗は、「都会の証し」とも言われる米系コーヒーチェーン「スターバックス(スタバ)」の北見三輪店。日本最北、オホーツク管内では初めてのスタバが11月2日、管内の中核都市・北見市にオープンした。
地域待望のスタバとあって、店外まで列ができ、ドライブスルーにびっちり車が並ぶことも珍しくなかった。地域住民の会員制交流サイト(SNS)には、念願だったスタバのドリンクの写真が数多くアップされるように。オープンから1カ月半ほどたっても、店内は混み合い、ひっきりなしに訪れる車を警備員が駐車場出入り口で誘導する。今も、かすかな「興奮」が感じられる。
オホーツクの住民がスタバを味わいたければ、旭川か釧路、あるいは札幌まで、数時間かけて移動しなければならなかった。
北見ではこれまでにも、スタバ出店のうわさが出ては消え-を繰り返してきた。「あそこの土地にスタバができるって本当?」「スタバがこんな田舎に出店するはずがない」。SNSやインターネット上の掲示板では、長年、住民がこんなやりとりを繰り返してきた。
そのスタバが、ついに北見にやってきた。
実は、スタバを運営するスターバックスジャパン(東京)は、以前から、北見市内で出店計画を立てていたという。そんな計画を励まし、後押ししたのが、地元の高校生たちが取り組んだ「研究」だったことは、あまり知られていない。
■なぜ、北見にスタバがないの?
スタバのオープンからさかのぼること2年半余り。2018年4月、北見北斗高に入学して間もない1年生たちは、自分たちで地域の課題を発見し、その解決策を探る研究に取り組み始めた。
同じクラスだった佐々木宥学(ゆうがく)さん、堀沢日景(はるあき)さん、武田明梨(あかり)さん、茶木凜花(りんか)さん、寺田楓実(ふみ)さんの5人は、一つのチームとして課題研究に臨むことになった。
北見北斗高は、先進的な理数系教育の実践校として「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH、文部科学省主管)の指定を2017年度に受けており、今回の課題研究の取り組みはその一環。1年生は全員、2年生は理系科目を履修する生徒が対象で、5人ほどでグループをつくり、1年間かけて研究テーマの決定から調査、実験などをこなし、結果をまとめて発表する。
なぜ、北見にスタバがないのか-。研究課題を考えていた5人の誰かが、ふと疑問を口にした。
「同じ道東の釧路や帯広にはあるのに、なぜ北見にはないのだろう。北見は、スタバの出店条件を満たせていないのではないか?」
早速、調査に取りかかることにした。
5人が立てた仮説は、こうだ。
《1》 人口に対して(北見の)面積は広い
《2》 同業他社がある
《3》 (地方のため)輸送の時間とコストがかかる
《4》 リピーターが少ない可能性がある
―など。これらがスタバの進出を阻む要因と考えた。
まず検討したのは、国土交通省が2014年3月に公表した国土形成の理念「国土のグランドデザイン2050」の参考資料だ。ここに、東京など三大都市圏を除く地域について、自治体の人口規模の大小ごとにサービス施設が立地する確率を表したデータがあった。
この中で、「スターバックスコーヒー」は人口17万5千人で立地確率が50%、27万5千人ならば80%と示されていた。
5人は、北見市の人口約11万8千人(2018年10月現在)を基に試算。この人口規模で、スタバが立地する確率は約33・7%とはじき出した。
北見市程度の人口の自治体では、スタバが立地する確率はかなり低い…。
■人口の少ない印西市に3店舗!?
そこで、北見市と同規模の人口でもスタバのある自治体と比べることにした。
注目したのは、千葉県印西(いんざい)市。北見市より少ない人口約10万人(2018年10月現在)にもかかわらず、印西市内にはスタバが3店舗もあった。印西市と比べれば、北見市に足りないモノが見つかるはず-。そう考えたのだ。
印西市との比較には、《1》人口《2》面積《3》最寄りの空港の平均発着数《4》大学数《5》同業他社数《6》年代別人口―の各データを使った。
その結果、《2》面積は北見市が10倍以上広い。一方、《3》平均発着数は、近隣に国際線の玄関口・成田空港のある印西市が、隣のオホーツク管内大空町に女満別空港を擁する北見市の約29倍もあり、交流人口が圧倒的に多いと想像できた。
さらに、《6》年代別人口は、「30代以下」がほぼ同数か、印西市の方が多いものの、「40代以上」は全年代で北見市が多かった。このことから、5人は「(スタバが北見に誘致できない要因として)高齢者の割合が高いことや、交流人口がさほど多くないことなどが挙げられると考察した。
一方、スタバでアルバイト経験のある教育実習生から、出店地域の学生数や交通量なども目安になっているようだ」との情報も得た。
■スタバからの「メッセージ」
2018年11月、北見北斗高で開かれた中間報告会で、5人はそれまでまとめた内容を発表した。
その内容は、北見市内の関係者を通じ、スタバの札幌の出店担当者に届けられた。担当者からは「研究に対して好印象を持っています。北見市民の期待に応えられるよう、積極的に出店に取り組みたい」というメッセージが、5人に伝えられた。
5人はスタバ担当者とつながりが持てたのを機に、出店の際に参考にしているポイントについて電子メールで質問した。
すると、スタバから「ドライブ商圏人口(車で20分以内の商圏)に、どれぐらいの人口がいるか」「(敷地の)前面道路の交通量」「敷地面積や地形、間口、車での入りやすさ」「周辺環境(ブランドイメージとのフィット感)」などの回答が寄せられた。
この内容を踏まえ、5人は次の調査に乗り出す。2018年12月、同校の1年生228人を対象に、「北見市の改善すべきところ(不便だと感じるところ)」について、自由記述式でアンケートを行った。
その結果を「経済」「交通」「娯楽」「自然」などのジャンルごとに分け、さらに「肯定的な評価」と「否定的な評価」の二つに仕分けて分析した。
「否定的な評価」で最も多かったのは「経済」で、「飲食店のバリエーションが少ない」「流行のものが伝わるのが、遅い」など意見が目立った。次が「交通」で、「電車やバスの本数が少ない」などの指摘があった。
この結果から、5人は「北見は公共交通が弱いため、車の利用者が多い。スタバは十分な広さの駐車場の確保を懸念しているのでは」「(北見の)問題点に注目するのではなく、魅力としてアピールできればスタバ誘致につながるのでは」などと結論付け、1年生の終わりにまとめた。
■スタバ、動く
そのころ、スタバ東京本社にも5人の取り組みが伝わっていた。地元にスタバを誘致しようと、一生懸命調べる高校生の姿は社員を大いに励ました。
スタバ広報部の大竹史生さん(43)は、高校生の課題研究を見た感想について、率直に語る。
「分からないじゃないですか、やっぱり。出店に向けた準備はしていましたが、開店しても本当に北見の人が来てくれるのか、どうか。スタバが地域に受け入れてもらえるのか、どうか。でも、高校生の取り組みを知って、これなら大丈夫だな、と。地域の人が期待してくれてるんだな、と」
最終学年を迎えた2020年。「スターバックス北見三輪店」オープン直前の10月30日夕、5人の姿が真新しい店舗内にあった。
「感謝の気持ちを伝えたい」。スタバ側が特別に招待したのだった。
「ようこそ、スターバックスへ」
5人が店内に入ると、スタッフたちが一斉に声をかけた。「好きなものを注文していいですよ。何にしますか?」。スタッフの問いかけに若干緊張しながら、お気に入りのドリンクを手にすると、思わず笑顔に。
席に着き、写真を撮り合うなどして、念願だった地元のスタバを満喫した。
課題研究のリーダーを務めた佐々木宥学さん(18)は、「まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。何より、大人が僕たちの研究を真剣に受け止めてくれたのがうれしかった。多くの人が楽しみにしていると思います。地域に長く愛される場所になってほしいですね」と期待を口にする。
(提供:北海道新聞)